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大阪地方裁判所 昭和41年(タ)44号 判決 1968年6月27日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 大川立夫

被告 Y

右訴訟代理人弁護士 水島林

主文

原告と被告とを離婚する。

被告の原告に対する財産分与を(1)別紙目録記載の土地建物及び(2)金五〇万円とする。

被告は原告に対し右金五〇万円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は、「原告と被告とを離婚する。被告は原告に対し、金一〇〇万円及び別紙目録記載の土地建物を分与せよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

≪以下事実省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告と被告は、昭和二〇年九月に挙式し、同年一〇月二四日婚姻の届出をした夫婦であり、その間に同二三年一月一〇日出生の長女Aがある。

(二)  結婚当時原、被告は肩書本籍地の被告方に同居したが、被告が○○航空に勤務していた関係で数回転居した後、同三二年頃には、和歌山県白浜町に居住していた。その頃被告は原告の姉婿である訴外Bの主宰する宗教団体の平等大慧会に関係して、妙法塔という観光をも兼ねた塔の建設準備に従事するようになった。そして次第に大阪方面等への出張が多くなり、外泊も重なるようになった上、原告に対し生活費すら満足に渡さなくなった。同三三年頃、一家は経済的な理由などから大阪市西成区のアパートに転居したが、被告は今度は、仕事のためと称して、和歌山、白浜方面へ出張して家を明けるようになり、翌三四年頃には、住民登録をも和歌山市内に移し、同市内の旅館の一室を借りて住まい、かくして一箇月の大半を家庭外で過し、少いときは二日程度しか帰宅しなかったこともあり、しかも夜分に帰り、翌朝出ていくといった状態であった(尤も、被告の住んでいる旅館やそこへの連絡方法は原告に知らせていた。)。そして生活費も原告が請求すると、その都度二、〇〇〇円とか五、〇〇〇円とった具合で支給され、一箇月平均二万円程度しか渡されなかったので、原告は生活に窮し、その兄Cから借金をしたり、質屋通いをしたりして切抜けてきたものの、それでは立ちゆかなくなったので、同三四年六月頃から、原告は○○生命の保険外交員として働き、長女Aとの生活を維持していったばかりでなく、その収入の一部を貯蓄し、同三九年三月には右貯金一六〇万円と被告の出した二〇万円の計一八〇万円で本件土地建物を購入し、一家の新住居とした(なお、本件土地建物の所有権登記は原告名義とされた。ちなみに原告は今日まで継続して右外交員を続け、その収入は漸次増大し、現在ボーナス年二〇万円程を除き、実収入は月六、七万円を下らず、他方生活費と教育費に四、五万円を支出している状況である)。この間原告は被告に対し、右の如く殆んど帰宅しない理由を何度も追及したのであるが、被告は、前記妙法塔建設資金獲得の一助にもと削岩機製造事業に従事していた関係もあって、いつも「仕事やから仕方がない。」と取り合わなかった。その上同四〇年一月からは、それまで不規則ながら入れていた生活費をも全然渡さなくなり、しかも依然として殆んど帰宅しなかったため、原告としてはこれ以上被告との夫婦生活を続けて行くことが耐え難くなり、同四〇年八月頃離婚を決意し、同月二五日頃たまたま帰宅した被告に対し、「これ以上一緒に生活できない。」と別れ話を持ちかけたところ、被告は途端に怒り出し、「殺してやる。」といって、原告及びとめに入った長女Aに対し、殴る・蹴る等の暴行をしたため、翌日原告は長女と共に前記家屋から家出し、爾来別居のまま今日に至っている。なお、被告は詐欺罪の容疑で広島地方検察庁から起訴され、目下公判係属中である。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫なお被告は、原告の本訴離婚請求の背景を前示のように主張し、これにそう如き被告本人の供述部分もあるが、それは結局のところ被告の推測の域を出ないものといえる。

二、むしろ右認定の事実によれば、原、被告間の婚姻生活は、昭和三三年頃から徐々に物心両面で夫婦共同生活体としての実を失って空洞化し、遂に同四〇年八月頃に至って回復し得ないまでに破綻してしまったものであり、原告の離婚意思はこのような背景の下に生じたものとみるのが相当である。而してそのここに至ったについては、前示のとおり、原告の経済力が漸次増大していったことが、全く無関係とはいえないにしても、主としては、被告が、たとい仕事のためとはいえ、余りに多い出張、外泊等原告ら家族を顧みない行動により、原告に対する夫としての同居協力扶助の義務を十分に尽さなかったことにあると断じて妨げない。そうである以上、被告の前示所為を以て今直ちに原告に対する「悪意の遺棄」にあたるとするにはやや足りないけれども、なお原、被告間には「婚姻を継続し難い重大事由」があるとするに十分であり、その責任の過半が被告にあることもまた明らかである。

三、以上の次第で、被告との離婚を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容することとする。而して離婚に伴う財産分与については、それが夫婦共通財産の清算を中核的要素とし、離婚慰藉料や離婚後の扶養料的要素をも含む包括的な離婚給付であると解すべきところ、(1)さきにみたように、本件土地建物は原告名義に所有権登記されているけれども、その購入の時期は夫婦生活が曲りなりにも続けられていた頃であり、購入代金一八〇万円も原、被告双方で出しあったものであるから、夫婦共通財産と目すべく、ただ右代金の少くとも大半は(実質的にみた場合必ずしも正確に原告一六〇万円、被告二〇万円の割合というのではないが)原告自身の働きによるものとみ得ること、及び他に夫婦共通財産と目すべきものを認め得る資料は見当らないこと、(2)原告が離婚のやむなきに至ったについては、前説示のとおり、主として被告の有責的行為に由来するものであって、離婚そのものによって相当の精神的打撃をうけるべきことは察するに難くないこと、(3)しかしながら、原告はさきにみたとおり、現に生命保険の外交員として、かなり高額の収入をあげており、長女Aの教育費を支出してもなお少くとも二、三万円は貯蓄する余裕をもっているのに反し、被告は現に刑事事件で公判係属中の身である上に、その格別の収入及び特有財産を認めるべき資料は存在しないから、離婚後原告が被告から扶養料的名目の金銭給付をうけるべき理由に乏しいこと、以上一切の事情を勘案して、当裁判所は、被告の原告に対する包括的離婚給付としての財産分与を、(1)本件土地建物の所有権(正確には被告の有する実質的持分)及び(2)金五〇万円と定め、且つ被告に対し原告に右五〇万円を支払うべきことを命ずる(なお、本件土地建物の所有権登記はすでに原告名義とされているから、あらためて被告に原告への所有権移転登記手続を命ずる要をみない)。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用した上、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高野耕一 裁判官 杉山伸顕 吉田昭)

<以下省略>

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